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人生朝露

人生朝露

至徳の世とプロメテウスの火。

Atom Heart Mother PINK FLOYD (1970)
福島の様子を報道で接する度に、ピンク・フロイドの『原子心母(Atom Heart Mother)』が浮かんでくる今日この頃。

参照:Atom Heart Mother (part1) Pink Floyd (clip vid?o)
http://www.youtube.com/watch?v=3zO2zVjeQYA

『縛られたプロメテウス』 ルーベンス画。
だれに言われる訳でもないですし、だれが言い始めたのかも知りませんが、これだけ福島の話題が続くと、原子力を「第二のプロメテウスの火」として、考えてしまいますね。人間に火を教えたがために、自らの内臓を大鷲に食い破られ続けるというプロメテウスの苦しみ。紀元前の昔から考えられ続けてきたことですが、この先も、こういうことを、人間はずっと続けるんでしょうか?

参照:Wikipedia プロメーテウス
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A6%E3%82%B9

「紀元前からの宿題」というわけで、人類史上最古級の環境思想家、荘子に戻ります。

Zhuangzi
『子獨不知至徳之世乎?昔者容成氏、大庭氏、伯皇氏、中央氏、栗陸氏、驪畜氏、軒轅氏、赫胥氏、尊盧氏、祝融氏、伏羲氏、神農氏,當是時也,民結繩而用之,甘其食,美其服,樂其俗,安其居,鄰國相望,?狗之音相聞,民至老死而不相往來。若此之時,則至治已。今遂至使民延頸舉踵曰“某所有賢者”,贏糧而趣之,則?棄其親而外去其主之事,足跡接乎諸侯之境,車軌結乎千里之外,則是上好知之過也。上誠好知而無道,則天下大亂矣。何以知其然邪?夫弓、弩、畢、弋、機變之知多,則鳥亂於上矣;鉤餌、罔、罟??之知多,則魚亂於水矣;削格、羅落、?罘之知多,則獸亂於澤矣;知詐漸毒、頡滑堅白、解垢同異之變多,則俗惑於辯矣。故天下??大亂,罪在於好知。故天下皆知求其所不知而莫知求其所已知者,皆知非其所不善而莫知非其所已善者,是以大亂。故上悖日月之明,下爍山川之精,中墮四時之施,惴?之蟲,肖翹之物,莫不失其性。甚矣夫好知之亂天下也。自三代以下者是已。舍夫種種之民而悦夫役役之佞,釋夫恬淡無為而悦夫??之意,??已亂天下矣。』(『荘子』キョキョウ 第十)
→あなたは至徳の世について知っているだろうか?(中略)その当時は、民は文字の代わりに縄の結び目を使い、自分の手で作った食べ物を美味いと思い、自分の手で織った着物を立派だと思い、その土地の娯楽を楽しいものと思い、粗末であっても自分たちの住まいで十分だった。隣の国とは鶏や犬の聞こえるほど近かったが、人々は老いて死ぬまで往来をしなかった。このような時代にこそ、人々はのんびりとくらしていた。ところが今では、つま先で立ってせかせかと歩き回り、遠くに賢人がいると聞くと、教えを請いに遠くまで出かけていく。故郷の親を捨て、恩義のあった人たちも捨て、国をも越えて千里の外へ車で走り回るようになった。これは上の者が知を好んだための過ちである。上の者が、さかしらな知を好んで道を忘れてしまえば世の中は大いに乱れてしまう。どうしてそうなってしまうのか?そもそも人が弓、弩、鳥網、弋(いぐるみ)などの道具を使う知恵を身に付けると、それから逃れようと鳥は空で乱れ、釣針、えさ、網、四手網、梁(やな)のような道具を人が使いだすと、それから逃れようと魚は水で乱れることになる。人が檻、罠、ウサギ網などの道具を使いだすと、獣は沢で乱れることになる。
 人の世とて同じ事で、さかしらな知恵を偽り、誹謗とねたみ、迂遠で姑息な言い回し、詭弁やでまかせなどの議論が横行すると、俗人たちはそれにとらわれて惑わされることになる。この罪は上の者が、そもそも知を好んだことによる。
 人はみな、知らないことを知りたがるものだが、すでに知ったと思うことを思い返したりはしない。自分がよくないと思うことは批判できるが、自分が一度よいと思ったことを反省することはできない。天下の乱れはそこが原因なのだ。天は日月の輝きを隠し、大地では山河の精気が萎み、四季の気象が迷い、地を這う虫も、空を飛ぶ鳥も万物すべてが本性を失う。人がさかしらな知を好み始めたのがすべての元凶なのだ。
 夏、殷、周の時代からの歴史はその連続だ。純朴な民衆を捨て、軽薄な人間を好み、私利私欲のために無為自然を忘れ、自分が知恵者だと一人ご満悦だ。ああ、すべて知こそが世の乱れの始まりなのだ。

・・・まぁ、まさにそうなってしまいました。

参照:当ブログ アバター(AVATAR)と荘子 その1。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5039

当ブログ 自然を感じてしまう人。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5061

荘子の言っている事というのは、一面においては「プロメテウスの火」です。しかし、ギリシャ神話と異なるのは、人間の立場のみならず、さかしらな人間の文明なるものに脅かされる命そのものに対しての眼差しがあるというところです。

どちらかというと、
「かえせ! 太陽を」
『ゴジラ対ヘドラ』の挿入歌『かえせ!太陽を』の方が近いですかね。

参照:かえせ!太陽を(ゴジラ対ヘドラ メイン・タイトル)
http://www.youtube.com/watch?v=Kh7VD-UpY0I

Wikipedia ゴジラ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%82%B8%E3%83%A9_(1954%E5%B9%B4%E3%81%AE%E6%98%A0%E7%94%BB)

地の龍脈のみならず、放射能によって生み出された龍の逆鱗に触れたというようなイメージがどうしても抜けません。「ゴジラ」が広島、長崎の原爆投下のみならず第五福竜丸事件に触発されたというのは有名ですが、また放射能かという思いは、地震直後からずっと抜けません。しかも、単純な災害ならいざしらず、原発に関しては原因は人間ですからね。

湯川秀樹。
老荘思想を愛する湯川秀樹さんは、こんなことをおっしゃっています。

『私もみなさんも、このごろは自然にかえれ、と大きな声で言いたくなるのは、つまり、科学などが進歩して、いらないものが増え過ぎる。いるものであってもたくさんこしらえすぎる、有害な副産物、始末の悪い廃棄物がいっぱいできる。有毒なガスが撒き散らされる、こんなのことになるなら、科学なんか進歩しなかった方が良かったんじゃないか、昔の自然に戻せ、という声が最近しきりに出てくる。そういうことを二千数百年前にいったのが、老子や荘子です。
私は中学生時代から、老子とか、荘子とかいうのが好きでした。なぜ、好きになったか、いろいろ原因があるのですけれども、日本では老荘思想が広がらなかった。ちょっと不思議ですが、みなさんも老荘にはあまり親しみがないと思います。そこういう思想は、日本だけでなく、世界的にも少数意見で広がらない。そこが私の好きになった理由の一つであります。』

『だから、なにも本当は理想郷じゃない。けれどもそれと全然逆の、物資はあり余る、情報が氾濫している、そして公害がいっぱいある、核兵器もある、BC兵器もある、とんでもないものがつくられ蓄積されつつある今日の状況からみると、老子の言っていることは、いかにも予言者の御託宣みたいな感じがしますね。どうですか。
そういうことを大昔にいっていた。みなはそれに従わなかった。それどころか、老子や荘子の思想は、日本では特に具合が悪い。勤勉哲学ではないからです。私も自分をわりに勤勉な人間だと思っている。少なくとも勤勉であろうと努めている。だからこういうところへ出てきて一生懸命に話している。
老子の言葉で一番好きなのは、「天地は不仁、万物をもって芻狗(すうく)となす」というのです。ものすごい真理ですね。素直に考えてみたら、だれも納得せざるを得ない真理です。しかし、ほかの人は、こんなことは言わなかった。
「天地は不仁」というときの不仁というのは、つまりあわれみ深くないということです。我々は天地の中に生まれてきた。この天地の中には、人間を含めて万物があるけれども、別にこと天地はあわれみ深くて人間のために万事よかれと配慮してくれているわけじゃない。
人間だけでなくて、すべてのもの、万物についてもそうですね。天地はネコばかり都合よくはできていない。ネズミにばかり都合よくできてはいない。天地は、なんとなくこういう風になっている。』

『老子が言うように、昔から食べているものをうまいと思って食べる、一種の自給自足の生活、昔ながらの生活、非常に簡素な生活をする。よその村とはつきあいはしない。それがいいと思うのも一つの割り切り方ですが、それは要するに、ただ割り切ってみただけのはなしで、そんな状態には、もはや戻れるわけじゃない。
しかし、そういう現実世界と極端に違う状況を想像してみるのはいいですね。二千何百年か前、すでにそういうことを言っていた人がある。それを今日、私たちが思い出してみるのは、大いに参考になると私は思うのです。』(以上 湯川秀樹著作集4 『私のいきがい論』より 1970年 朝日ゼミナールでの講演)

日本最初のノーベル賞受賞者が、一見、その対極にある思想に惹かれるという不思議。湯川さんの老子や荘子の読み方に、同意しかねる点もありますが、この人は違う、と思わせるに充分です。我々は、やはり古典に恵まれていると思います。

参照:当ブログ 荘子と進化論 その75。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/diary/201104300000/

当ブログ 湯川秀樹と荘子 その2。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5009

先人たちの答えは無数にあります。
大切なのは問いの方でしょう。

今日はこの辺で。


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